
FCVAによる水素フリーDLC成膜の特徴
1. 成膜原理
- FCVAはアークプラズマ源を用いた成膜法です。
- 真空中でターゲットにアーク放電を起こし、高エネルギーのカーボンイオンプラズマを生成。
- このプラズマを磁場でフィルタリング・加速し、基材に衝突させて膜を形成します。
2. 水素フリーDLC(ta-C)膜の特性
- sp³結合比率が80%以上と非常に高く、ダイヤモンドに近い構造。
- 水素を含まないため、膜密度が高く、絶縁性・硬度・耐摩耗性に優れます。
- 低温成膜が可能で、加熱を伴わずに室温での成膜も実現。
- ドロップレットがほとんどなく、滑らかで高品質な膜が得られます。
3. 成膜の利点
- 高密着性・高硬度・低摩擦係数。
- 熱に弱い基材(プラスチック、ゴム、セラミックスなど)にも対応可能。
- 膜厚は10μm以上の厚膜にも対応。
- 成膜後の除膜も容易(RIEプロセス)
【技術概要】
NTIの創業者でありシンガポール・ナンヤン工科大学のShi Xu博士が開発したFCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)成膜技術は、アークプラズマ源を用いたイオンビーム蒸着法です。真空中でターゲット上にアーク放電を起こさせると、高エネルギーのイオンのプラズマが発生しますが、FCVA はこのプラズマを磁界で集束し、誘導加速して基板上に衝突させ、膜を形成する方法です。
プラズマ発生時に発生するミクロ~マクロのパーティクルを分離/除去する一般的な対策としては、45°あるいは90°に曲げたダクト(シングルベンド)内をカーブ磁界によってプラズマを誘導、パーティクルをダクト内壁でトラップする手法がとられます。
これに対しFCVA方式では、独自開発の三次元的な屈曲を持つダブルベンドフィルターの採用で、パーティクルの効果的なフィルタリングと高いプラズマの運搬効率を両立。さらに高エネルギーの電磁場を使用して、蒸着膜におけるマクロパーティクルをほぼ完全に除去、ドロップレットの生成を防止できます。

膜表面の外観図からは、ダブルベンドフィルターの効果によりパーティクルが大幅に低減していることが分かります。

上図が標準的なカソ―ディックアーク成膜技術による膜表面、下図がFCVA成膜技術による膜表面
FCVA成膜方法の特長
FCVA成膜方法の特長は以下のとおりです。
①パーティクルの除去:マクロパーティクルは電磁気的空間フィルター内壁に付着し、イオン化した炭素のみ抽出する
②室温コーティング:元々のエネルギーが高いため、加熱を一切行なわず、室温でのコーティングが可能
③膜質のコントロール:基材へのバイアス電圧によってイオン粒子のエネルギーを制御し、硬度等任意の特性を発現する膜を形成する
一般的に、イオン種のエネルギーが増加すると膜密度と密着性が向上するが、従来の成膜技術では基材の温度を上げるアプローチで高エネルギー化が図られていた。しかし基板の温度上昇は諸問題の原因となる。これに対しFCVAではイオン種のエネルギーが高いため室温での成膜が可能で、密着性が飛躍的に改善、膜の特性を細かく制御できる。